近鉄田原本線(西田原本~新王寺)サイクルトレイン通年化と経営状況
近鉄田原本線のサイクルトレインが通年化へ
近鉄では,田原本線(たわらもとせん)で季節限定で実施していたサイクルトレインを,2023年4月22日より,通年化することを発表しました。自転車を折りたたまずに電車に乗れる取り組みで,鉄道の利用者を押し上げる効果が期待できます。
近鉄田原本線は,西田原本~新王寺を結ぶ10km強の短い路線です。沿線には一定の人口が存在し,中高生の通学にも利用されています。3両編成のワンマン電車が往復する運転方式で,日中は1時間あたり2本の運転が基本です。普通のローカル路線,といった感じでしょうか。
サイクルトレインでは,3両編成のうち2両目に最大16台の自転車が乗車できるとのことです。真ん中の車両にするのはわかりやすくていいですね。普通のきっぷだけで乗車できるので,自転車で沿線地域をめぐる人々にとっては魅力ある電車と言えるでしょう。
近鉄田原本線の経営状況
近鉄田原本線は奈良県内を走るローカル線で,経営状況はまずまずといったところでしょうか。平地をワンマン電車が走る形式のため運行コストはそれほど高くありません。通勤・通学需要を一定程度取り込むことも出来る路線で,大幅赤字で苦しい状況にはなっていないと考えられます。
路線別の営業係数が不明のため,近鉄が公表している「駅別乗降人員」を参考に田原本線の経営状況を考えてみましょう。
田原本線の駅別乗降人員は,両端の西田原本駅(4,766),新王寺駅(5,967)に偏っています。西田原本駅では近鉄橿原線田原本駅,新王寺駅ではJR大和路線王寺駅(と近鉄生駒線王寺駅)への接続が可能です。JR王寺駅からは快速約18分で大阪市の中心部天王寺駅にアクセスできるため,通勤需要が見込めます。乗車人員が最も少ない黒田駅(641)も3ケタありますので,一定の需要が見込めると言ってよいでしょう。両端の駅で接続があることで,ラッシュ時に一方向に偏った輸送になりにくく,短い編成で効率よく運行できる点は強みと言えそうです。
また,沿線には高校もあります。大輪田駅(1,893)は西大和学園中・高の最寄り駅,箸尾駅(1,451)は大和広陵高校の最寄り駅です。これらの駅は田原本線の中間駅のうち,乗降客数が1・2位の駅なので,通学需要が田原本線を支えている側面があると言えます。両端にも,西田原本駅近くに磯城野(しきの)高校,新王寺駅近くに王寺工業高校があります。
田原本線沿線の観光地としては,馬見丘陵公園や唐古・鍵遺跡がありますが,電車で訪れる人は限定的で,自動車での観光が多いと思われます。ただ,観光資源自体はあるため,サイクルトレインのような取り組みをすることで,日中や土日といった通学需要が少ない時間帯の利用を底上げしたいところです。
サイクルトレインによる田原本線利用促進の経営改善効果
観光需要を伸ばしたい田原本線で,サイクルトレイン実施でどの程度経営状況を改善できるのでしょうか。
サイクルトレインの実施は沿線に観光地があることだけでなく,京奈和自転車道(自動車道ではなく自転車道です)があることを踏まえているようです。自転車道を走るサイクリストに電車も利用してもらおう,というわけですね。季節限定での実施により一定の効果があったからこその通年実施とも考えられます。
サイクルトレインの乗車定員は16台までのため,ここでは仮に,平日は2台,休日は8台が乗車するとします。乗車区間は京奈和自転車道に近い箸尾駅~西田原本駅の片道とします。サイクリストの方々なので,往復とも電車に乗るより,片道は自転車で走り,片道は電車で違った景色を楽しむ,といったイメージで考えました。
乗車区間は4.5km,運賃は240円となります。平日,土休日とも上下あわせて29本のサイクルトレインが走るため,
平日:240円×2台×29本=13,920円(58人)
土休日:240円×8台×29本=55,680円(232人)
の増収が見込めます。乗降客数の伸びでは116人,464人となり,数%になるかどうかというレベルで,大きな経営改善にはならない見込みです。
ただ,コストとしては,サイクルトレインの広告宣伝用や,自転車を乗せることによる車両の傷み増加,トイレ利用による水道代などが考えられますが,金額としては小さいでしょう。むしろ,沿線観光地の発展などに繋がり他の利用客を呼び込むきっかけになることもあり得ます。そもそも田原本線は3両編成しかなく,ラッシュ時も平日日中も3両で走るしかありません。空いている時間帯は空気輸送になりやすく,1両分をサイクルトレインとして活用すれば単純な増収を見込めます。地道な取り組みではありますが,ローカル線でできることは限られる中で,沿線の状況を活かした優れた取り組みと考えられます。
近鉄田原本線が経営分離される可能性は?
近鉄田原本線は一定の需要がありますが,将来的な経営は大丈夫なのでしょうか。近鉄は赤字ローカル線を多く抱えている上,主な利用客の奈良県民・三重県民は将来的に人口減少で減る見込みです。沿線の住宅開発や運賃値上げ,経営の効率化を進めても限界があり,いずれはローカル線が経営分離されることもあるでしょう。実際,伊賀線が伊賀鉄道となったような事例もあります。
田原本線が近鉄として存続できるかどうかのカギを握るのは,通学需要だと思います。磯城野高校,王寺工業高校はそれぞれ特色ある学科を備えており,存続しやすいと考えられます。私立の西大和学園中学・高校は偏差値がとても高いエリート校で人気が高く,通学需要だけでなく文化祭や見学会などへの来訪者の田原本線利用も期待できます。大和広陵高校も地域の中心に立地し,野球部が甲子園に出場するなど魅力があります。奈良県内の人口減少に伴って高校が統廃合されるリスクはありますが,公立高校だけでも沿線に3校あり,特色も異なることから一気に通学需要が急減することはなさそうです。
需要を伸ばす取り組みとしては,沿線の観光資源を活かした観光需要の取り込みが欠かせません。サイクルトレインは好例と言えるでしょう。路線距離こそ短いですが沿線ののどかな風景は奈良らしさも感じられそうで,限定の観光列車を走らせるのも一案と思います。田原本線の車両は橿原線を通じて回送されることがあり,連絡線が普段から使われています。記念列車が橿原線から直通運転された実績もあり,他路線から鉄道ファンを含めた乗客を取り込むことは可能でしょう。
また,コスト削減余地もあると思います。現在の3両編成は老朽化が進んできており,更新が必要になってきます。更新時には3両編成の新造にこだわらず,2両ワンマン車の導入も一案と思います。真ん中の車両がなくなりサイクルトレインの手法について検討が必要ですが,1両目・2両目の連結部付近のシート色を変更してサイクルトレインの部分を示す方法などで対応可能と考えられます。2両編成を取り入れることで,運転本数を極力維持しつつ,車両の整備コストを下げられれば田原本線が存続しやすくなるでしょう。
上記のような背景から,田原本線は近鉄として存続できると考えています。近鉄が経営分離するとしても,湯の山線のような盲腸線で観光の伸びしろが限られるところが先な気がします。
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